素人が音楽の話を聞いてきた
○講演会に至るまで
ロックバンド『サカナクション』のリーダーを務める山口一郎さん。
彼の講演会があったので参加してきました。
サカナクションは去年12月頃、ニコ動のランキングにて初めて知りました。
淫夢MADに端を発したブームは瞬く間に広がり、現在も下火ながら続いています。
グループはこの炎上騒ぎに際し、削除申請等の手続きをほとんど取らなかったようです。
そうした判断に首をかしげつつもPV付きでYoutubeに上がっている動画を見て、
TSUTAYAでCDを借り、携帯端末で聴いたりしてここ数か月は楽しんでおりました。
そんな中山口さんの講演会があるという通知を受け今回に至ります。
講演会は無料だったこともあり整理券はかなりの倍率でした。
ど新参の自分が拝聴したのは正直申し訳ないと思います。
しかしながら3時間に及ぶお話が非常に面白かったのでまとめることにしました。
※注意:山口さんの言葉を再出力する際にかなり変容している可能性があります。
○音楽を売るということ:PV制作
今音楽業界で最も力を入れているのがミュージックビデオなのだそうです。
なぜなら気になる楽曲を我々がネットで検索した際、真っ先に動画がヒットするから。
大体300万~500万ほどで制作されますが、かなり予算はカツカツ。
よってスタジオの撮影も一日(本当に24時間)かかって行うようです。
でも売れるためのロジックが厳格なCMとは違い、
ミュージックビデオはキャスティング等で自由度が高いんだとか。
今回は映像監督の田中氏が
『バッハの旋律を夜に聴いたせいです。』『新宝島』について語ってくれました。
○制作談話(バッハ・新宝島)
鏡像とは異なる動きをする、4体の人形を棒で動かす、人形と人間が入れ替わる、
本作の演出には音楽界のみならず他分野の人間も驚愕したといいます。
この曲について田中さんに与えられたリクエストは「ダンスものがいい」
曲調と「ダンス」の不和に悩んでいる中、
たまたま見かけた”人形を棒で動かす”海外のコメディアンと、楽曲のイメージが合致。
その方向性で一気に制作したということでした。
映画「バクマン」の主題歌としてリリースされた本曲。
まんまドリフの演出とハイテンポで明るい歌詞。
サカナクションが一気にポピュラーになる発端となった一曲です。
(自分もこの曲から入りました)
丸一日使って撮影なので、山口さん最後のシーンは疲れから足がよろけて
何度も撮り直しになったとばつが悪そうに話していました。
一方ピッタリ合っているチアダンサーの皆さんは振付ユニットエアーマンの生徒。
指導が厳しいらしく最後までガッツリ踊っていたそうです。タフ!
○場を作り上げること:ライブマネージメント
2000年代前半ごろにはCDの大ヒットと言えば数百万枚が相場でした。
しかし今は20万枚いけば大健闘、CDは売れなくなってきているのだとか。
一方でライブへの参加者は年々増加傾向にあるようで、
サカナクションも毎回ライブには力を入れています。
具体的には
☆会場の盛り上がり、盛り下がりを想定した「ダイナミクス」を設定
・それに合わせて照明・レーザー・LED等を使用
・同じく演奏楽曲の選曲・演奏順も吟味
・観客との間に透明な投影幕を下ろすなど、実験的な演出に挑戦
など様々な工夫をとくとくと語っていただきました。
繰り返していたのはライブの為に多数の技術者が必要だということ。
照明、音響、スクリーンに投射する映像作成者、楽器の運搬…
綿密な連携あってこそライブは完成するのです。
(その分100人近くが一度に移動することになって、結構赤字とも言ってましたが)
○美しく、難しいものを伝える
サカナクションは既存の楽曲制作だけでなく、
法整備の進んでいないネットでのチケット転売防止や
CMだけに対象を絞った15秒~30秒の楽曲作成など
(企業は街中で該当楽曲を聴いたとき商品を想起してもらえるよう
15秒のCMであっても数分の楽曲制作をリクエストするのが主流なんだとか)
新たな取り組みを多数行おうとしています。
団塊ジュニアである山口さんにとって
父親たちが守ってきた風習を変えていこうという強い思いが根底にはあるようです。
「分かりやすく、美しいもの」が望まれている最近の映画や音楽に対して
「美しいけれど、難しいもの」をどう伝えていくかが、今後の課題であるとも話していました。
○ロックバンドの新しい夢
サカナクションは2017年9月末に幕張メッセで行われるライブにて
音感知式のLEDライトを多数使い「音楽を目で見えるようにする」計画です。
~かつてアメリカのジャズミュージックは演奏者と観衆の区別が曖昧で、
時に麻薬を使用した観客らが踊り狂う会場、その全体で一つの音楽を形成していた。
一方ロックミュージックは舞台という区切りを設けたことで、
観客はミュージシャンのパフォーマンスに自身の投影し半狂乱に陥らなくなった~
みたいなことを椹木野衣が言っていたように思いますが、
サカナクションが目指す方向性からは ”音が見え、光が聞こえる”
LSD的な要素がロックミュージックの現場から復活したように思いました。
「音楽を浴びるものじゃなくて、見つけるものにしたい」
山口さんの結びの言葉です。
今後サカナクションの歌から自分は何を見つけられるのか、
過去ヒットミュージックが大衆に「何も考えさせない」要素を持ち合わせていたことを
頭に残しつつ、生演奏の『ユリイカ』を聴いて帰ってきました。